商号(会社名)の記載

会社の名前の付け方にも、法律上、いろいろとルールがあります。ここでは主なものを紹介してみます。

【記載例1】
(商号)
第1条 当会社は、Abc商事株式会社と称する。
【記載例2】
(商号)
第1条 当会社は、株式会社アーヴェーツェー商事と称する。

まず、最も大事な点ですが、設立しようとする会社が株式会社であれば、「株式会社」という表記を必ず含めるようにしなくてはなりません(「Abc Inc.」とか、「Abc K.K.」などはダメです)。

【記載例1】のように、社名の後ろにつける場合(「ウシロカブ」あるいは「アトカブ」)や、【記載例2】のように、社名の先頭につける場合(「アタマカブ」あるいは「マエカブ」)があります。一時期はアトカブが流行ったなど、トレンドはあったようですが、いずれにするかは発音や印象などによって決められることが多いようです(単なる好みの問題かもしれません)。

なお、将来、国際的な取引が予定されている場合には、英文契約書上の表記で誤解を生じることのないよう、あらかじめ会社公認の英文表記を決めておくことができます(【記載例3】)。ただし、登記簿には英文表記の部分は登記できませんので、会社ができあがったあとの登記事項証明書(いわゆる「会社の謄本」)には、次の【登記記録例】のように表示されて出てきます。

【記載例3】
(商号)
第1条 当会社は、北海道Abc株式会社と称し、英文ではHokkaido Abc Co.,Ltd.と表示する。
【登記記録例】
商  号
北海道Abc株式会社

平成14年の法令改正によって、それまで認められていなかったローマ字表記などが認められるようになりました(たとえばNTTは「エヌ・ティ・ティ」という形でしか登記できませんでしたが、現在は「NTT」という表記ができます)。そのほか、「アンド」の代わりに「&」が使えるようになるなど、記号も使えるようになっています。

★ 詳しくは法務省(民事局)のサイトで確認できます(商号にローマ字等を用いることについて)

★ 商号の決め方のルールは、上記以外にも様々なものがあります。例えば使ってはいけないものとして、(1)公序良俗に反する単語(「殺人請負」など)、(2)会社の支店や一営業部門であることを示す言葉(「株式会社NTT総務部」などはNG)、(3)他の法令で禁止されている言葉(法的に許されて銀行業を営む会社ではないのに、「銀行」という言葉を使うなど)、などといった制限がありますので、専門家の意見を参考にして慎重に決めなくてはならない場合があることに注意してください。

コラム 〜 会社名の決め方アドバイス

社名はまさにその会社のブランドを形作るといっても過言ではありませんから、どんな名前をつけるかは、極めて高度な経営的判断を伴う問題です。でも、そうはいっても、零細・小規模会社の社長さんは、あまり気にせずに直感で決める方も少なくないようです。そうした事情もあってか、最近では一見して何を意味するのか不明なアルファベット表記の社名も、よく見かけるようになりました。由来を聞くと、実は3人の子どもの名前の頭文字です、とか、自分の名前(苗字)を単に英訳しただけです、なんていうケースも結構あったりします。(※注)

法律上の約束事があるとはいえ、商号は基本的には自由につければよいですし、最初はしっくりこなくても、使っているうちに愛着が湧くというケースもあるでしょう。けれども、「こんな商号にしなければよかった」と、後になって悔むような命名は、できることなら避けたいものです。私は「名付け親」は依頼されても辞退するようにしているのですが、それでも仕事柄、数百社以上の会社さんの商号を目にしてきていますので、その立場からある程度、助言できることはあります。はじめて起業する方が、あらかじめ商号について知っておいた方がいいと思われることを、いくつか紹介してみたいと思います。

まず、「日本語には縦書きもある」という点があげられます。公的な実務書類はA4板・横書きが今や常識となっているのですが、それでもビジネス慣行上、縦書きが皆無になったわけではありません。たとえば将来、お祝いの献花を会社名で出すとか、社名を毛筆するといった場面なども、一応想定しておいたほうがいいかもしれません。

次に「発音」です。何度か発音してみて、一般の人にとって言いにくい・聞き取りにくいと思われる呼称は、避けるべきでしょう。ここでもイマジネーションを働かせて、将来、自分や事務員さんが電話に出たときに自社名を名乗る場面とか、電話で問い合わせをしてきた顧客がどんな印象をもつだろうとか、あるいはエンドユーザーや取引先、第三者の人の間で自社名が話題にのぼるような場面などを想像してみるのも参考になるかもしれませんね。

さらに「長さ」もあります。縦書きや発音とも関連しますが、あまりに長すぎる商号は、実務上の支障をきたすことも十分ありえます。たとえば、「株式会社インターナショナル・ミューチュアル・コミュニケ―ション・アンド・ハイパートレーディングカンパニー」(架空の商号)なんてのは、読みにくいし、書きにくいし、何よりも覚えにくい!この例は極端にしても、長い名前は、よほどのこだわりや必要性?がない限り、他の表記を考えたほうがよさそうです。年賀状のあて名書き(印刷)とか、結構、「勘弁してよ〜」と心の中で叫びたくなる会社さんもありますし・・・ね。

(※注)


他人の商号と同一・類似の商号にしてしまうと、商標権侵害を理由とする差止めや、不正競争防止法にもとづく損害賠償などを受けることもありえます。そうした危険を回避するため、予防法務的な見地から、「あまりありそうにない名前にしておこう」という考えもあります