契約と契約書

「契約」と聞くと、普段はあまり意識しませんが、わたしたちは普段の日常生活上、実は頻繁に「契約」をしています。

コンビニでジュースを買うのは売買契約、

バスや地下鉄に乗るのは運送契約、

借りているアパートの家賃を毎月払うのは、もちろん、賃貸借契約をしているからです。

 

ところで、そうした「契約」と「契約書」との関係は?と聞かれると、なかなか明快な答えが出て来ないものです。

契約書をつくっておけば、相手を法的に拘束できる(あるいは逆に、法的に拘束される)、

そんな認識が一般的かもしれません。

 

昔、契約書の相談に来られた方が、こんなことを言ってきたことがありました。

「先生、契約書でガッチリ、相手を縛っておきたいんですよ。がんじがらめにして、こちらの言うことを聞くように。そういう強力なものを作ってもらえませんかねぇ」

これには、一瞬、言葉を失ってしまいました。

この相談者の会社はいわゆるITベンダーで、聞くと事業の実態は、どうやら「仕事を出してもらっている」立場。

もしそんな一方的な内容の契約書案などを突き付けたら最後、今後の取引を打ち切られるのでは・・・?と、まずはその若社長に取引契約のイロハをお教えしたものでした。

 

わたしたちはどうしても、契約書、という書面(形ある現物)に目が行きがちですが、まず、当事者間でどのような内容の合意を形成するかが最重要の問題なのです。

それを踏まえたうえで、契約書の作成云々を考えることが基本になってきます。

そのためには、契約に関する法的な基礎知識は、どうしても知っておくべきだと思います。

特に「契約」というのは、このあとに述べるように、法律上の特別な意味を込めて用いられる言葉、すなわち「法律の専門用語」なのです。

契約とは 〜 入門編

契約とは,対立する複数当事者間の意思表示の合致によって成立する法律行為です。

対立する意思表示が合致する典型例としては,例えばAさんが「Xを100万円で売ろう」という意思表示をしたのに対し,Bさんが「Xを100万円で買おう」といった意思表示をする場合がこれにあたります。

この意思の合致があると,AB間には売買契約が成立します。

その成立した契約に基づいて,当事者間に一定の法律関係が発生します。

売買契約は,当事者双方が一定の義務(債務)を互いに負う契約(民法555条,双務契約)です。

前述の例では,AB間には次のような法律関係(債権・債務)が発生します。

 Aさん ・・・ Xを引き渡す義務(債務)

 Bさん ・・・ Xの代金100万円を支払う義務(債務)

法律学上(講学上)は,次のように債権を中心として考え,矢印で表現することがあります(矢印の基点が債権者,矢の先が債務者)。

売主 買主
A 代金請求権(債権)
--------------------→
B
←--------------------
目的物引渡請求権(債権)

※双務契約では,一方当事者は債権者であると同時に債務者です。Aは代金との関係では債権者ですが,物の引渡しとの関係では債務者です。

※「債権」とは,一方の当事者が相手方に対して一定の給付・行為を求めることが出来る地位,などと説明されます。

「債権」という用語は,「売掛金債権」「代金債権」といった金銭の給付を目的とする債権を表すことが多いのですが,「除雪作業をしてもらう」「家を建ててもらう」「部屋を貸してもらう」といったものも,「債権」に含まれます。

※一旦発生した債権は,当事者が債務を履行するなどして,その目的を達せられると消滅します。

以上が契約成立の基本形です。

現実の取引・合意の場面では,引渡日時・場所・支払方法・利息や遅延損害金の定め・契約費用その他諸費用の負担・不履行の場合の取り扱い・契約の解除・保証や担保・管轄裁判所,等々,付随する様々な取り決めがなされます。 これらの取り決めも,基本的には当事者の合意のみによって可能です。

注意すべきであるのは,後述するように当事者の合意のみによっては成立しない契約や,書面の作成交付が必要になる契約があることです。

また,契約自由の原則といっても,その合意の内容が公序良俗違反であったり強行法規に反する場合(労働基準法・借地借家法・利息制限法・各種消費者保護関連法など)には,合意どおりの法律効果が発生しなかったり,契約そのものが無効になる場合があります。

契約の締結にあたっては,「自分に有利かどうか」という点に目が行きがちですが,そうした基本的な部分に法的問題がないかどうか,慎重な検討も必要といえるでしょう。

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