電子定款認証の委任状の作り方は(電子定款委任状)

几帳面な?依頼者の方が一番心配するのが、この「委任状」の作成についてかもしれませんね。

「委任状は依頼者である自分が自ら作り、持参しなくてはいけないのではないか」

と考えてしまうようです。

おそらく、印鑑証明書を役所で取得するときなどの「委任状」が頭に浮かぶのでしょう。

たしかに、もしこれが役所が相手の話だと、

「委任状がなければ、交付できません」

などと言われて出戻りになってしまいますから、代理して窓口に行く人の多くは、あらかじめ自力で調べてから役所に赴くことでしょう。

行政書士(専門家)への委任状は、あらかじめ自力で作る必要はない

相談者や依頼人が、専門家や行政から指示もされないのに、自分で委任状を作成・持参しなくてはいけないなんてことは、まずありえません。

 

電子定款認証を専門家に依頼するときは、

これまた何度質問されたか,わからないほど,(同業者を含め)多くの方々にお答えしてきた委任状の作成例です。

下記は,発起人が4人の株式会社設立のケース。

もちろん,発起人全員の実印による押印が必要です。 印鑑証明書も添付します。

委任事項の文言中,「‥‥別紙のとおりその原始定款を作成し,‥‥」とあるのにお気づきでしょうか。

そうです,この「委任状」と題する書面は,いわゆる一枚モノの書面ではなく,この後に合綴される「別紙」(=代理作成と認証嘱託を委任する定款内容)と一体化して初めて,「委任状」となります。

後ろにくっつく「別紙」と,この「委任状」と題する書面が全体として一通の「委任状」になるのですから,差し替え等がなされていないことを証するために,全てのページに割印(正確には,「契印」)を押すのが一般です。

※ 復数葉に亘る書面に,複数人が押印している書面については,そのうちの一人の印による契印でよい場合もありますが,公証実務では,発起人全員の押印が必要とする扱いが一般です。

この理屈がわかっていると,次のような問題は,わりと簡単に答えが出そうです。

Q1.「委任状」と題する書面の次,すなわち2ページ目には定款の表紙(cf.表紙は法的には定款の一部ではない)が来るのだが(定款に表紙を付けているケース),1枚目と2枚目の間には契印はいるのかどうか。

Q2.その冊子状になった「委任状」の最後のページ(=別紙定款の最終ページ)には,発起人の氏名が記載されているが,その氏名の横には押印は必要か。

Q3.すべてのページに契印なんて大変だから,これを袋とじにして作成したいのだが,認められるのかどうか。

 

ちなみに,応用問題

本件発起人中,屯田一郎が未成年だったとします。

Q4.屯田一郎は,発起人になれるのか。

Q5.発起人である屯田太郎と屯田花子が,屯田一郎の親権者であった場合には,印鑑証明書以外に委任状に添付する書類はあるか。あるとすればそれはどのような書類か。また,それはなぜ必要か。

Q6.屯田一郎は,取締役になることはできるのか。

Q7.新川次郎が,破産者で復権を得ていない者である場合には,同人は発起人になれるのか。さらにこの会社の取締役に就任できるのか。

Q8.仮に,新川次郎が遠隔地に居住している場合であっても,一通の委任状上に発起人全員の記名押印が必要か。発起人それぞれから委任状を取ることはできないのか。 ※正解は後掲


委 任 状

         (住 所) 札幌市北区屯田7条2丁目8番20号

         (氏 名) 行政書士 森 広 靖

              (登録番号04011898号)

  私どもは,上記の者を代理人と定め,次の権限を委任します。

   1.株式会社TONDEN設立に際し,別紙のとおりその原始定款を作成し,これに

     発起人の代理人であることを表示して電子署名し,公証人の認証を受ける手続に

     関する一切の件。

   1.定款の謄本の交付請求及び受領に関する一切の件。

  

   平成21年3月18日

                   (商 号)株式会社TONDEN

                    札幌市北区屯田○○丁目○○番○○号

                      発起人 屯 田 太 郎 (印)

                    札幌市北区屯田○○丁目○○番○○号

                      発起人 屯 田 花 子 (印)

                    札幌市北区屯田○○丁目○○番○○号

                      発起人 屯 田 一 郎 (印)

                    札幌市北区新川○○丁目○○番○○号

                      発起人 新 川 次 郎 (印)

【問題の答え】

A1.完全に合綴されていることを証するため,この箇所にも契印は必要。

A2.別紙の一部にすぎないので,押印は不要。

A3.差し替え等がなされていないことを明らかにできるため,袋とじでもよい。

A4.なれる。発起人の資格に別段の制限はない。ただし,A5.の場合に注意。

A5.同一書面上で発起人としてそれぞれ記名押印していることから,屯田太郎・花子が,屯田一郎の発起人就任を承諾していることは明らか。あとは同人らが屯田一郎の親権者であることを証する書面の添付が必要。
 具体的には戸籍謄本がこれにあたる。会社法では,発起人は一株以上の株式を引き受けなければならないとされており(25条2項),また,未成年者である発起人が制限行為能力を理由として株式引受を取り消すことは制限されていないが(51条参照),実務上は手続の安定を図るため,未成年者の発起人就任には親権者の同意が要求されている。この点は認証時,公証役場にチェックされる扱いである。
 なお,親権者がその保護する未成年者とともに発起人として記名押印していない場合には,別途親権者の同意を証する書面が必要になる。

A6.なれる。未成年者であることは,取締役の欠格事由ではない(会社法331条参照)。

A7.発起人,取締役のいずれにもなれる。発起人の資格には制限はなく(A4.の解説参照),また,破産者(復権を得ていない者も含む)であることは,旧法と異なり,取締役の欠格事由にはなっていない(会社法331条参照)。

A8.できる。上記作成例は,全員の発起人からの委任を便宜一通にまとめた例外的形式であり,本来は個々の発起人から個別に委任状を出してもらうのが原則。 そのため,たとえば,本件作成例の委任状を2通作成し(屯田太郎・花子・一郎の3名が押印・契印している委任状と,新川次郎のみが押印・契印している委任状),これらを併せて公証人に提示することにより,発起人全員からの代理権授与を証明する方法もある。

※各地の公証役場によって若干取扱いが異なる可能性もありますので,認証実務に携わられる方は,必ず管轄の公証役場に確認してください。 (本稿によって生じたいかなる損害についても,当事務所は責任を負いかねます)


[お断り]本稿は、運営者個人が運営していたBlog(本サイトとは別サイト)内でご紹介していた記事を、若干補筆して掲載したものです。