遺産の分割について

人が死亡すると、生前の財産には所有者がいなくなると考えるのが自然です。

ところが、民法は人が死亡すると同時に相続が開始することとしました。

つまり、特別の手続を必要とせずに、原則として、法律上当然に亡くなった方の財産は相続人に承継されます。

よく、先代から受け継いだ財産が先代の名義のままになっているケースがありますが、法律上は先代の死亡と同時に相続人に権利が移っているわけですね。

では、そのようなケースで、相続人が複数いるときには、どのような法律関係になるのでしょう。

民法の考え方では、分割前の遺産は相続人全員が共有していることになっています。

つまり、財産が共有(共同所有)になっているということは、それぞれの相続人が、それぞれ権利(所有権)を持っているということです。

ということは、共有になっている財産は、自分一人だけの所有(単独所有、単に単有ともいう)しているわけではないので、勝手に使ったり処分したりすることができないことを意味します。

この共有の状態を解消しましょうというのが、遺産の分割といえます。

分割手続 〜 一般的な遺産分割手続の流れ 

遺産を分割する手続の大まかな流れは次のようになります。 (遺言がない場合の例です)

遺産分割手続では、上の図ので示した遺産分割協議書の作成が、大きなポイントです。

遺産のうち、土地や建物の不動産は、法務局という役所で権利移転手続をとることになるのですが、その申請に分割協議書が必要になります。

預貯金の払戻手続では、相続人の代表者などが窓口に出向いて行うことが多いですが、その手続の必要書類として提示・提出を求められることがあります。(協議書に代わる様式の書類の提出を認める金融機関もあります)

そのほか、自動車の名義の変更などの各種手続にも、必要になることがあります。

ちなみに、この協議書は、原則として相続人全員の実印押印が必要です。

もし、戸籍上は生存しているが所在が不明の相続人(法律上は「不在者」といいます)がいるときには、その不在者の相続人としての権利を代わって行使する人(不在者の財産管理人)を選任しなくてはいけません。この手続は家庭裁判所の審判で行うことになりますが、一般に申立てから審判が下りるまで数週間から数カ月かかります。

この場合、財産管理人が選任されるのを待って、分割協議の手続(協議書の作成)を行います。例えば、ABCの三人の相続人うち、Cが不在者でDがその管理人に選任されたとすると、分割協議書にはABDが押印することになります。

なお、身寄りのない方が亡くなったとき(配偶者や子、親兄弟が存在(生存)していないとき)のことを、法律上は「相続人の不存在」と呼んでいます。この場合は、原則としてその方の財産は国のものになりますが、もし生前に看護療養にあたった人などがいれば、家庭裁判所の手続によってその人に一定の財産が分け与えられることもあります。相続人がいませんので、この手続には分割協議書は必要ありません。

一般に、「相続人がいない」という言い方がありますが、上記のいずれの状態であるのかは、戸籍調査によって確認していくことになります。